終了レポート

「北の海の生きものたち -海と日本PROJECT-」

日 程 :
2021年6月23日(水)~11月30日(火)
開催場所:
マリン・ラーニングのホームページ内にてオンライン配信
参加者数:
410名
主 催 :
北海道大学大学院水産科学研究院
目 的 :
北海道大学の教員3人によるオンライン講義を通し、生物の生態や海洋環境について考えるきっかけを提供する。

イベント内容

「北の海の生きものたち -海と日本PROJECT-」では、3本の講義動画を配信しました。

①【イトウの養殖~採卵を中心に~】
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授 山羽悦郎先生

 北海道の河川の魚として有名なイトウについての講義と、七飯淡水実験所での飼育の様子を解説とともに紹介しました。
 七飯淡水実験所では近隣の鳴川の水を飼育水として利用しています。川の水の温度には季節変化があり、冬に水温が十分に低くなります。このため、春産卵のイトウにとっては、一年を通して同程度の水温を保つ井戸水より成熟に適しており、良質な卵の採取ができています。
 イトウを受精卵から育てていますが、1年で10㎝ほどしか大きくなりません。メスは60cmになって初めて産卵しますが、6年かかることになります。しかしその後は毎年採卵でき、大型の1匹のメスからは一度に約6000粒の卵が採れます。また、自然界では海に降りることも知られています。一般にサケマスは海水中で高い成長を示すことから、イトウでも道南福島町および八雲町で海水養殖が試みられています。イトウの成長は遅いため、お刺身が好まれる脂ののった成魚だけでなく稚魚を使った加工食品等を、他団体とも協力して開発したいとのことでした。
 後半の動画では、実験所での採卵、受精、受精卵の処理などの作業が紹介されました。

 

②【洋上風力発電と海鳥】
北海道大学大学院水産科学研究院教授 綿貫豊先生

 自然再生エネルギーの中でも、洋上風力発電は日本で特に期待され、大規模開発の計画が多くあります。この洋上風力発電所の海洋生態系への影響を科学的に評価すること、とりわけ、国内繫殖種の半数の種の絶滅が危惧されている海鳥への影響をどう軽減するかは今後の課題です。この課題についての最新の研究を綿貫豊先生が講義しました。
 風力発電所が海鳥に与える影響は、衝突(海鳥が風車に衝突して死ぬ)のリスクと回避(大規模風力発電所ができることにより、その近隣の採食場所が消失し、採食の困難性によって繁殖数の減少が起こる)のリスクがあります。海鳥のバイオロギング(GPS追跡)により詳細なデータを集積することで、このリスクの高い場所を示したセンシティビティマップを作製することができます。今後、海鳥のコロニーへの影響をできるだけ避けながら、自然再生エネルギーの活用を推し進めていくためには、より詳細なリスク表示が可能なセンシティビティマップの開発とその応用が期待されています。

 

③【海藻の知られざる世界】
北海道大学大学院水産科学研究院助教 宇治利樹先生

 日本には約1500種類の海藻が生息していると言われています。その中の一つ、スサビノリの一生と生殖の仕組みについての解説がありました。私達に馴染みのあるノリの姿が海中に見られるのは冬の時期だけで、ノリの生長過程におけるその段階は「配偶体」と呼ばれます。他の季節には「胞子」や「胞子体」として海中に生息しています。スサビノリは一つの個体に雄の細胞と雌の細胞を作ることができ、それが受精して胞子となり、体の外へ出ていきます。
 スサビノリの養殖において重要なのは、生殖と生長のエネルギーを調整する工夫です。生殖は海水の温度が上がり光の当たる時間の長い春の時期が適しています。また、化合物(ACC、グルタミン酸など)を与えることによって生殖が促進され、逆に与えないことで生長が進みます。
 近年では、ゲノム編集技術の開発が海藻の分野でも注目されています。ごく小さなDNAやタンパク質を海藻の細胞に入れる技術が紹介されました。海藻は食品のみならず、肥料や化粧品、薬など、その利用はますます広がっています。

 

 3つの講義はいずれも、最新の研究で得られたデータとともに、実験に使用する器具や装置も映像で紹介し、研究成果とこれからの課題について丁寧な説明がありました。海の生き物と海を取り巻く環境について理解を深めることができました。

(和田敦子)

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