イベント概要
函館地域産業振興財団では、「海の宝をめぐる学びと体験 マリン・ラーニング海と日本2018」の事業として、8月6日(月)、北海道立工業技術センターと日乃出食品㈱にて、「海の宝わくわくサイエンスツアー 海と日本PROJECT」を開催いたしました。 (公財)函館地域産業振興財団では、平成22年から小学生を対象とした科学教室「わくわくサイエンスツアー」を開催していますが、昨年度から、北海道大学「海の宝をめぐる学びと体験 マリン・ラーニング」と連携し、中学生まで参加対象を広げ開催しました。
今回のイベントでは、小学5年生から中学2年生までの参加者16名が、海水から食塩を製造する際の副産物である「にがり」を活用した豆腐の製造方法を、実際に豆腐の製造現場を見学して、その歴史と共に学び、科学実験講座では、「にがり」を用いて豆乳から豆腐を作る実験のほか、凝析(ゲル化)について、科学理論がどのように私たちの生活に役立っているのかを学び、科学のチカラを体感しました。
オリエンテーション
オリエンテーションでは、午後の科学実験講座の講師を務める立命館宇治高校(京都)の渡辺儀輝教諭から、自然界における引きあったり、反発しあったりする作用について、名称と原理の説明があり、豆腐製造工場と科学実験講座で何を学んでいくかの概要説明がありました。
第1部 ものづくり製造工場見学 (日乃出食品㈱:七飯町)
オリエンテーションのあと、参加者は、バスで七飯町にある日乃出食品㈱豆腐製造工場に移動、実際に豆腐や油揚げ等を作っている工場を見学しました。日乃出食品㈱は1929年に函館市で創業した、ロングライフ充填ブロー豆腐「やっこさん豆腐」でお馴染みの地域を代表する豆腐メーカーです。
まず、工場見学の前に、食品製造工場ということから毛髪の落下を防ぐキャップと泥などが工場内に入らないよう靴カバーを着用後、吸着ローラーで衣服の表面をきれいにしてから工場見学となりました。
工場見学は、2班に分かれて行われ、日乃出食品㈱代表取締役社長の工藤さんと副社長の工藤さんのお二方に、お豆腐や油揚げができるまで、生産ラインの順を追ってご説明いただきました。
工場の内部では、ゆであがった大豆や豆乳の甘い香りがしています。
工場内部の見学の後、工藤社長より豆腐の歴史について、ご説明いただきました。
もともと中国で生まれた豆腐が、奈良時代に遣唐使によって日本に伝えられ、当初は寺院や貴族の間での高級食品だったものが、江戸時代に一冊の本から作り方が庶民に広がったそうです。日本に伝来したころの豆腐は硫酸カルシウム(澄まし粉・石膏)を凝固剤に使われていましたが、江戸時代に製法が進化して、塩田で塩を作るときに得られる「にがり」(塩化マグネシウム)を用いるようになり、現在の美味しい豆腐となりました。
しかし、「にがり」を用いた豆腐は第二次世界大戦で一時期消えてしまったそうです。「にがり」は戦闘機の原材料であるジュラルミンの原料だったからです。
終戦後、お豆腐屋さんが激増します。食べるものが少なく、働くところがないので、個人のお豆腐屋さんが増えたのです。そのとき、使われたのは「にがり」ではなく、「澄まし粉」でした。その後、昭和30年代からピーク時に5万店まで増えたお豆腐屋さんは、スーパーが増えた影響で、現在は8000店まで減少しました。平成の時代になって、やっと「にがり」のお豆腐屋さんが復活したそうです。説明のあとに、「にがり」やお豆腐、豆乳を試食させていただき、参加者から「お豆腐一丁に対して何グラムの大豆が使用されているか」、「災害が発生した時の対応はどうしているか」などの質問があり、最後には記念撮影を行って、工場見学は終了しました。
第2部 科学実験講座
第2部では、講師の立命館宇治高等学校(京都)の渡辺儀輝教諭が講師を務め、「海の不思議なにがりのはなし」として、午前中の工場見学でお土産としていただいた「にがり」を使用して、豆腐を手作りする実験からスタートしました。渡辺先生は、平成25年3月まで函館市立函館高校に勤務。授業だけではなく、執筆やメディアへの出演、サイエンスショーなどを通じ、青少年に科学技術の面白さや深遠さを伝えています。
豆腐の手作り実験では、まずビーカーに入った豆乳を実験用コンロで75℃まで加熱します。
豆乳の温度があがるまでの時間を利用して、ゲル化・凝析についての説明と実験を行いました。
先ずは、函館地域の「函館真昆布」にも豊富に含まれているアルギン酸ナトリウムを用いた実験です。これをオレンジ色に着色して、カルシウム溶液にスポイトで滴下していきます。
液滴で落とされたアルギン酸ナトリウムは、その表面がカルシウムと反応して、アルギン酸カルシウムに変化します。
すると溶液の中には、イクラのようなボール(人工イクラ)ができあがります。食べることはできませんが、イクラにそっくりです。
この反応は、紙の補強や加工食品などの技術に応用されているそうです。
参加者が人工イクラ作りにチャレンジし一喜一憂している間に、温めていたビーカーの豆乳が75℃になりました。そこへ先ほど工場見学先の日乃出食品㈱でお土産にいただいた「にがり」を加え、かき混ぜます。
豆乳の成分であるたんぱく質は、沈殿することなく豆乳全体に行き渡っており、その状態を科学用語ではコロイドと呼ぶそうですが、それにより〝にがり〟と結びついたたんぱく質が「凝析」することによって全体が固まりお豆腐が出来上がるという仕組みです。
実験用コンロの火を止めて、豆腐が出来上がってくるまでの時間を利用して次の実験を行います。
次の実験では、スメクタイトと呼ばれる粉(「ケイ酸アルミニウムマグネシウム」)を用いて、豆腐とは異なるゲル化を学びました。
スメクタイトを水の入った容器に入れ、一生懸命振って溶かします。スメクタイトは、水に溶けたあと、振り続けていると水のようにサラサラと液体のようにふるまいますが、振るのをやめると凝固する性質を持っています。また、再度振り始めると水のようになります。これは電荷のプラス、マイナスでの結びつきで起こるのではなく、分子の吸着で起こる「凝析」だそうです。
置いておくと固まり、振ると液体になる単純だけど面白い現象を参加者が楽しんでいるうちに、ビーカーの中で豆腐ができていました。
液体の中に豆腐ができています。これを押し固めると豆腐のできあがりです。
このほか、紙おむつなどに使用されている超吸水性ゲル(ビーズ状)がお土産として配られました。
休憩をはさみ、最後の実験として子ども達に人気の「スライム」作りを行いました。
まずは「ホウ砂水溶液」を作っておき、別に食用色素で着色した水(4色)を用意します。
着色された水に洗濯のりにも使われている「ポリビニルアルコール」を加えて、紙コップに移しておきます。そこに作っておいた「ホウ砂水溶液」を加えて混ぜ合わせるとゲル化が起きて、スライムができあがります。
参加者のみなさんは次々に紙コップと割りばしとスポイトを手に取って、スライム作りに没頭していました。
できたスライムは、手がべたつかないようにポリ袋に入れて、そのぷにゅぷにゅとした感触を楽しんでいました。
以上で科学実験講座は終了しました。
最後に、講師を務められた渡辺先生から、自然界の不思議な事象について、自分の頭や手を使って、考え調べることの大切さについてお話がありました。また、渡辺先生は、「調べてわかったことは他者に伝えることで、より理解が深まる」と、コミュニケーションの重要性を強調していました。
参加者の声
参加した女子小学生は、「お豆腐がどうやってできるのか初めて知った。実験講座でスライムを作って持って帰れて良かった。」と講義・実験と見学がセットとなったイベントの良さについて語ってくれました。また、男子小学生は、「いっぱい人工イクラを作れた。家族に見せたい」と大事に持ち帰っていました。
(鈴木 浩樹)