大阪湾概要
古くは「茅渟(ちぬ)の海」とよばれた大阪湾。シルクロードと日本をつなぐ玄関口として栄え、遣隋使や遣唐使も大阪湾から出発したという。
地形的には、大阪平野と淡路島に囲まれた楕円形の海域を指し、面積は約1450㎢もある。海岸線は約540km。神戸—東京の高速道路の距離とほぼ並ぶ。水深は、もっとも深い紀淡海峡で197mあるが、平均水深は28mと浅い。大阪湾には淀川、大和川、武庫川、大津川などの川が注ぎ、これら河川の水質が大阪湾の水質に影響を与えていた。もっとも、最近はこれら河川の水質が改善されたため、大阪湾の水質も改善されつつある。ただ、海底にたまっている汚泥の問題はいまも解決されていない。また、海岸線の大半は埋め立てによりコンクリートで固められてしまい、砂浜や磯場は和歌山県と大阪府の県境あたりまで行かなければ見ることはできない。
4月1日(土):船による大阪湾視察(スナメリ調査、水質調査、ノリ養殖場)
体長2mほどのハクジラの仲間スナメリ。日本から台湾にかけて沿岸に生息し、日本では仙台湾〜東京湾、伊勢湾〜三河湾、大阪湾を含む瀬戸内海〜響灘、大村湾〜有明海〜橘湾で暮らしているといわれる。だが、大阪府のレッドリストでは、「絶滅の危険が増大している種」に指定され、生息状況はあまり把握されていない。
海遊館では2010年からスナメリの調査を開始し、岸和田市の沖から関西国際空港の南側にかけた海域でスナメリを目撃。大阪湾にもスナメリが生息していることを確認している。今回の視察ではチャーター船で約1時間かけて天保山岸壁から出港。関西空港近くで、約15分ほど船上から観察を行った。けれども、スナメリを確認することはできなかった。
次に、大阪湾南東部の阪南市にある西鳥取漁港の漁業設備やノリ養殖場を視察。ノリ養殖は播磨灘(兵庫県)や大阪湾の淡路島側(兵庫県)で盛んに行われ、大阪府側では3軒の漁業者のみとなった。最盛期の1970年代には70軒もあったというが、価格低下による経営難や海岸線の埋め立てが進むなど経済、環境の両面から事業者が減ってしまったという。
現在残っている3軒の製品は、大阪府が選ぶ特産品「大阪産(おおさかもん)」というブランド認証を受けている。これら「阪南の海苔」は肉厚で、しっとりした味わいが特徴だ。
養殖場は阪南市の西鳥取港から500mほどの沖にあり、紅藻類のスサビノリを養殖している。船上からその様子を観察。最近は淀川や大和川などの水質もよくなったため、窒素やリンによる富栄養化には歯止めがかかったが、逆に栄養分が不足して、ノリの色が薄茶色になってしまうという問題も出てきたという。
船上からの視察後は、協力していただいた名倉水産のノリ加工場で板海苔の製造工程の説明を受け、敷地内で海苔すきを体験した。生ノリを木枠付きのすだれに流し、天日で干す。乾燥には丸1日かかるため、当日は食べられなかったが、これは後日のお楽しみ。生徒たちの手元に届けた。当日は、機械製造の板ノリを試食させてもらい、風味豊かな味にみな大喜びだった。
いっぽう、このあたりでは底びき網や流し刺し網漁が盛んだ。そこで、西鳥取漁協の協力で漁師さんから説明を受け、さらに、漁船や漁具の見学も行った。
5月27日(土)・8月5日(土)/第1回、第2回天保山岸壁での付着生物調査
一見、ひどく汚れているように見える大阪港。大阪湾の奥にあり、安治川や木津川などが注ぎ、神戸港とともに、次世代高規格コンテナターミナルを形成するスーパー中枢湾に指定されている。海遊館がある天保山ハーバービレッジには天保山岸壁があり、海外からの豪華客船も頻繁に入港。また、安治川の対岸にあるアミューズメント施設と連絡する船も行き来している。
天保山岸壁において、水面よりそれぞれ55cm・150cm・350cm下に付着基盤を沈めた(2017年2月11日)。そして、5月27日、8月5日の2回にわたり付着基盤を引き上げ、それぞれの深さの基盤上で採集される生物を調査・観察した。この付着基盤はカキ殻を活用したもので、築港中学校の参加者が南港野鳥園で採取して作った。ここでは8月5日の調査・観察について詳細を記載する。
当日は地元の築港中学校、大阪府立市岡高等学校の生徒10名と引率の教師2名が参加した。午前10時、対岸からの連絡船「キャプテンライン」の到着を待ち、桟橋に仕掛けておいた付着基盤を海遊館スタッフが回収し、実習室で観察を行った。
前回は、フジツボ、ヨコエビ、ウミウシ、ホヤ、ヒトデなど約50種類の生物が観察できたほか、天保山岸壁では初めてトウヨウコシオリエビとショウジンガニも採集できた。また、イタボヤ類、ヒドロ虫類、コケムシ類などの群体も観察できた。これらの群体は、1匹、2匹と数えられる無性生殖によって増えた個虫が集まり、様々な機能を役割分担しながら全体としてひとつの個体のようにふるまう。天保山岸壁で見つかるウミウシ類のエサとなっている。
2013〜2016年までの調査では、水温が高い8〜9月は、採集できる生物数はぐんと減る。これは、高水温に加え底層の酸素濃度が極端に少なくなり、自力で動ける生物は逃避できるが、そうではない生物は死んでしまう。また、5月の採集時には ムラサキガイが目立ったが、季節によって種類や個体数はちがう。
水深(cm) | 水温(℃) | 溶存酸素(DO) | 塩分(psu) | |
---|---|---|---|---|
5月27日 | 30 | 20.67 | 5.32 | 14.1 |
150 | 20.4 | 5.28 | 15.1 | |
350 | 18.55 | 4.47 | 25.9 | |
8月5日 | 30 | 26.02*1 | 4.05*2 | 26.3 |
150 | 25.03*1 | 3.98*2 | 27.8 | |
350 | 24.89*1 | 2.61*2 | 30.9 |
*1:5月にくらべ水温は高いが、8月としては低いほうだ。30℃近くになることもある。
*2:5月にくらべ、底層の溶存酸素が低下しているのがわかる。2~3mg/l付近は底生生物が生存できる限界に近い。
1 | オショロミノウミウシ科の一種 |
2 | ユウレイボヤ |
3 | カタユウレイボヤ |
4 | エボヤ |
5 | シロボヤ |
6 | ザラボヤ |
7 | 群体のイタボヤ類 |
8 | マヒトデ |
9 | イトマキヒトデ |
10 | ダイリンチビクモヒトデ |
11 | ウスヒラムシ |
12 | ゴカイ科多種類 |
13 | サンハチウロコムシ |
14 | アリアケドロクダムシ |
15 | ヨーロッパフジツボ |
16 | タテジマフジツボ |
17 | ヒドロ虫類 |
18 | カニヤドリカンザシ |
19 | タテソコエビ科 |
20 | メリタヨコエビ科 |
21 | ヒゲナガヨコエビ科 |
22 | イソガニ |
23 | タカノケフサイソガニ |
24 | イッカククモガニ |
25 | ヨツハモドキ |
26 | ムラサキガイ |
27 | ミドリイガイ |
28 | ウスカラシオツガイ |
29 | ウスユキミノガイ |
30 | ムギガイ |
31 | シマメノウフネガイ |
32 | イソギンチャク類 |
33 | アカニシ卵 |
34 | コエダカイメン |
35 | トゲワレカラ |
36 | クビナガワレカラ |
現時点では36種類ほどの生き物が見つかった。これは、種数が減少する夏場としては予想外に多かった。この後、数日かけて精査する予定(8月22日現在54種)。採集されたもののなかには、2012〜2015年の調査で、大阪湾で初めて発見されたコエダカイメンも含まれている。これは小枝のような細い突起があり、天保山岸壁と同時期に住吉川河口でも発見されているが、日本での分布や生態についてはまだ知られていない。1990年代に三重県で見つかり、拡大状況が把握できていない外来種のオショロミノウミウシ科の一種も、数年前の調査に引き続き、今回、見つかっている。
7月29日(土)、大阪湾とれとれ体験(堺出島漁協「とれとれ市」)
大阪湾の湾奥部に位置する堺市。旧石器時代から人が住み、5世紀には古墳も造られ、ヤマト王権の確立後も、とくに経済の重要拠点として発展してきた。経済的に潤えば、芸術や食文化も発達する。堺は茶の湯の千利休を輩出した。利休の父親は魚屋や倉庫業を営む豪商だったといわれているが、堺に水揚げされた海産物は、遠く春日大社(現在の奈良県)や高野山(現在の和歌山県)にまで運ばれていたという。それほど、海の幸に恵まれていたのである。
また、昭和20年代までは4つの海水浴場があり、海浜リゾートとしても親しまれていた。しかし、昭和30年代以降に堺泉北臨海工業地帯の開発が進められると、漁業も徐々に衰退。さらに、関西国際空港の開発で漁業者の経営合理化や再編成が進んでしまった。
もっとも、堺から岬町までの泉州沿岸では、いまも13漁港が健在する。なかでも堺(出島)漁港にはスズキ、キジハタ、サワラ、クロダイ、マアジ、カレイ、タチウオ、アナゴ、エビ、タコなども水揚げされ、漁港に併設されている「とれとれ市」は、買った魚をその場で食べられるとあって、観光名所にもなっている。
さて、今回のイベントでは以下の順で、大阪湾の魅力を中高生に実感してもらった。
6月10日(土)・7月 8日(土)・8月 9日(水)
南港野鳥園干潟での生物調査と環境学習(環境改善作業)
大阪市港区にある海遊館から車で5分ほど南に、人工干潟を擁する大阪南港野鳥園がある。大阪港から大阪湾に出てすぐ。遠くに六甲山(神戸市)の山並みや神戸市の高層ビル群、明石海峡大橋などを望む絶景ポイントだ。オープンしたのは1983年9月。明治時代後半の1906年に住吉浦の埋め立てがはじまって以来、一帯は次々と自然の海岸を失っていった。その後、1960年代後半になると、大阪湾の環境再生を望む声が市民のあいだで盛り上がり、ようやくこのバードサンクチュアリが誕生した。
そして、この野鳥園にはいま、シギ類、チドリ類などシベリア―オーストラリア、ニュージーランドを往復している渡り鳥たちが羽を休めるために集まってくる。人工干潟とはいえ、ここには渡り鳥のエサが豊富にある。今回、3回にわたり行われた調査では地元の築港中学校と市岡高等学校の生徒たちによる生物調査、干潟環境の改善策の一環としてカキの密集場所からのカキの移動と、カキ礁造りを通じて環境学習を行った。各開催日の内容は以下のとおりである。
6月10日:干潟の生物調査
確認種
7月8日:干潟の環境改善作業
8月9日:干潟改善エリアの生物調査
7月8日に実施した、干潟の環境改善作業(密集したカキの移動。移動場所にカキ山設置)の成果を確認する。さらに、干潟の生物調査とカキ礁の生物利用状況の確認(水中ビデオ撮影&生物採集)を行った。その結果、次のようなことがわかった。
(佐々木ゆり)