終了レポート

海と日本PROJECT 駿河湾「うみフォト」ワークショップ

日 程 :
8月11日(金)9:00~12:00、13:00~16:00
開催場所:
東海大学清水校舎(静岡市)
講 師 :
東海大学海洋学部海洋フロンティア教育センター 講師 鉄多加志先生、同・合志明倫先生
主 催 :
東海大学海洋学部
共 催 :
北海道大学大学院水産科学研究院
目 的 :
生命の躍動感にあふれる海中写真やマリンスポーツ写真。その写真を複数枚レイアウトすれば、海の物語が生まれる。既存の写真を活用した8枚組の「海絵本」を、アップルのソフト「Keynote」を使い制作し、表現力を養う。

Keynoteで海絵本を作る

 スマートフォンの普及で、パソコンの操作ができない10代が増えている。しかし、社会人になると、パソコンのソフトを活用したプレゼンテーション資料を作成する機会が増える。また、スマートフォンやカメラなどで撮影した画像を保存したり、加工処理したりするにもパソコンは欠かせない。

 今回は、本プロジェクトのメインイベントである「海の宝アカデミックコンテスト」への応募をうながすことも目的のひとつとして、東海大学の教員や学生が撮影した海中写真と、アップルのプレゼンテーション用ソフト「Keynote」を使った「海絵本」のワークショップを開催。また、講師の合志明倫先生によるスライドトークショーも行った。

 当日は、オープンキャンパスも開催されており、東海大学清水校舎には全国各地から入学を検討する「海好き」の少年少女が集まっていた。その多くは両親にともなわれていたものの、ワークショップに参加した半数近くは兵庫県、滋賀県、千葉県、神奈川県などから一人もしくは友だち同士でやって来た高校生だった。

 会場となった教室では、講師の鉄多加志先生が所属する海洋学部フロンティア教育センターの入学案内も行われていた。高校生たちはまず、合田浩之特任教授と岡田夕佳准教授から説明を受け、その後、いよいよパソコンの前へ。こちらでは鉄先生と合志先生、学生3名が待機。彼らは、プロダイバーでもある鉄先生、全日本ランキング第3位のプロウィンドサーファーの合志先生のもとで実習を受けており、ダイビングやウィンドサーフィンなどマリンスポーツを得意とする。高校生たちは年齢の近い学生たちから体験談を聞きながら、用意されていた画像から好きな写真を選び、海絵本を作った。

 Keynoteは操作が極めて簡単で、扱いになれている人の指導があれば、10分程度で完成する。けれども、教わるほうも教えるほうも海が大好き。お互いに海の魅力を熱く語り合いながらの制作。
「これはクマノミですね?」
「シュノーケリングしかやったことがないのですが、やっぱりダイビングのほうがおもしろいですか?」
「水中で写真を撮るって、むずかしくないですか?」etc.

 次から次と、さまざまな質問が飛びだしてくる。一人で参加した高校生などは、30分以上もパソコンの前に座り、その目はキラキラ! 1枚の写真を選ぶだけでも夢がふくらんでいるようだ。

 海の生きものたちの写真が本格的に撮影されるようになったのは、じつは、そんなに古い話ではない。ざっと、その変遷を追ってみよう。

 水中写真は、1856年にイギリス人のペンニーが最初に撮影したといわれている。その後、1893年に、フランス人のルイ・ボータンが水中カメラを開発。さらに、マグネシウムを使った水中用ストロボを開発。1899年に地中海で撮影に挑んだ。被写体は海洋学者のエミール・ラコヴィツア。このときは潜水服を着用し、水深50mまで潜った。このぐらいの水深になると太陽の光が届かないので、海中はかなり暗い。ボータンは重石を付け、酸素を充満させた樽を海底に沈め、その上にアルコールランプを置き、粉末マグネシウムをこの中に吹きつけて発光させたという。

 その後、記録に残っているなかでは、アメリカの雑誌『ナショナル ジオグラフィック』の1927年1月号に、フロリダ州ドライ・トルトゥーガス諸島の沖の珊瑚礁で撮影されたホグフィッシュという熱帯魚のカラー写真がよく知られている。

 その後、1943年にフランスの海洋学者、ジャック=イヴ・クストーらにより、空気を詰めたタンクを背負って潜るアクアラング(スキューバダイビングの器具)が開発され、水中写真も徐々に広がり始める。日本では、スキューバダイビング専門誌を創刊するなど半世紀以上にわたり活躍した舘石昭氏(1930—2012)が第一人者として知られる。

 海中では潮の流れがあるうえ、被写体との距離感がつかみにくいため、写真撮影はけっこう難しい。しかし、1980年代後半以降のダイビングブームで、一般の人たちも海に潜る機会が増え、それと同時に、「ハウジング」や「ウォータープルーフケース」などとよばれるカメラの防水ケースが普及。水中でのデジタル撮影も簡単に行えるようになった。

 ところで、水中撮影は、たんに美しい珊瑚礁や生きものを撮るだけに利用されているわけではない。鉄先生のように何百年も前に海底に沈んだ船の発掘調査を行っていると、発見物の写真も記録しなければならない。

 沈没船と聞くと、「お宝探し?」と思われがちだが、「水中考古学」という学問なのである。2001年にはユネスコで「水中文化遺産保護条約」も採択されている。この条約では、水中文化遺産を「文化的、歴史的または考古学的な性質を有する人類の存在の全ての痕跡であり、その一部あるいは全部が定期的あるいは恒常的に、少なくとも100年間水中にあったもの」と定義されている。つまり、発見しても安易に引き揚げられないので、いかにピントのあった写真や動画が残せるかがポイントになる。

 とはいえ、今回、参加した高校生の大半は、スキューバダイビングはもとより水中撮影の経験がない。そして、Keynoteを使うのも初めて。

 「あ〜ッ、この魚がかわいくっていいな!」といった遊び感覚で絵本作りを楽しんだ参加者がほとんどだった。いまは、めざす水産系、海洋系大学への合格を夢見て、ひたすら受験勉強に打ち込む毎日。がんばれ、海好き高校生!!

会場の東海大学海洋学部。

受付をすませてワークショップに。

鉄先生から魚の話なども聞きながら海絵本の作り方を教わる。

東京から来た高校生兄弟。二人とも数日前にダイビングに行ったばかり。

何百枚もの水中写真のなかから気に入ったものを選び海絵本を作る。

「楽しそう〜!」と友だち同士で参加。

付き添いのお母さんも夢中です!

高校生の兄と中学生の妹。両親の影響で海好きに。

順番を待つあいだ、学生に海の魅力や海洋学部の特徴をたずねる参加者。

海絵本作りを手伝った東海大学海洋学部の学生。彼らが撮影した写真も使う。

海絵本作りを手伝いながら、スタッフも海の魅力を語る楽しさに大満足。

(佐々木ゆり)

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