マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

メガマウスに聞いた海のお話し ~海と日本プロジェクト~
わぁ~ッ、ぷよぷよしてる!
謎の巨大ザメ、メガマウスの解剖を中高生が体験

開催日
2016.08.11(木)
会 場
大阪・海遊館
参加者
大阪市立築港中学校生徒17名
大阪府立市岡高等学校13名
主 催
海遊館

ゴム風船のように口がふくらむ!?

 夏になると、毎年のように報じられる海水浴場のサメ騒動。世界で約500種類のサメが確認されているなかで、人喰いサメは27種類。その代表が映画『ジョーズ』で有名になったホホジロザメです。大きなものでは6mくらいあり、体重は1トン前後と軽自動車1台分。サメ研究の第一人者、仲谷一宏(なかや・かずひろ)北海道大学名誉教授によると、ホホジロザメの次に怖いのがイタチザメで、サイズは全長6mになります。大きな口と鋭い歯で、ビンや古タイヤなど海のゴミまで食べちゃうとか!?

 でも、世界の海は広い。こういうサメが徘徊する一方で、ホホジロザメと同程度の大きさなのに、プランクトンしか食べない「メガマウスザメ」のようなおとなしいサメもいるのです。

これがメガマウスザメの口。

 メガ(巨大な)マウス(口)の名称どおり、メガマウスザメの口からノドまでの長さは、全長の25〜29%もあり、何でも食べるイタチザメよりもロング。当然、頭も大きくて、その姿はカラオケマイクのように尻すぼみ。口は広げると1メートルにもなり、上あごを数10センチも前方に突き出し、ノドの部分の皮膚も伸縮自在というスゴ技の持ち主です。

 スゴ技は、巨体を維持していくために進化した食事法で、水深12〜200mくらいにすみ、プランクトンを見つけると、①ガバ〜っと大口を開けて海水を飲み込み、②泳いでいるうちに水圧でノドの皮膚が伸びて、さらに大量の海水が入り、③上あごと下あごを突出させて、口の中をよりいっそう広げ、④十分に海水をふくむと口を閉じ、⑤左右に5個ずつある鰓孔(えらあな)から海水を排出し、⑥鰓孔の鰓耙(さいは/ウロコがたくさん生えた指状の突起物)にプランクトンが引っかかって、それをゴックン!

全長5.17m。胸びれの上側は暗灰色だが、下側は白い。

 仲谷先生の計算では、全長5mのメガマウスザメのばあい、口の中の容積は約600リットル。家庭で、1日に1人が使う水の量は約220リットル。その3倍近い量をためられるのですから、大口を開けて泳いでいるようすは、“きもカワイイ”はず? しかも、一般的なサメと違い、細かな軟骨で支えられた胸びれは、海中で滑らかに動き、泳ぎ方もゆったり。メガマウスザメは、癒し系なのかもしれません。

 でも、食事中の姿を見た人はゼロ。メガマウスザメは、1976年に、ハワイのオアフ島沖で初めて発見され、「魚類ではシーラカンスと並ぶ20世紀最大の発見」と騒がれて以来、2016年8月20日現在、太平洋、インド洋、大西洋など世界の海で108頭しか確認されていません。その108頭目が、今回、世界最大級の水族館「海遊館(かいゆうかん)」で解剖された全長5.17m、体重約1トンのメス。今年4月13日に、三重県尾鷲市の海で定置網に入っていたのです!

触って実感、メガマウスザメの不思議な生態

「鰓孔を触ってみよう」と仲谷先生。
現場で指揮をとる西田館長。

 「発見されたメガマウスザメのなかには、生け捕りされて、発信機を装着できたケースがカリフォルニアで1例あります。20頭も発見されている日本でも、北大水産学部や福岡、沖縄、神奈川、静岡などでは解剖しましたが、網から逃げたり放流したケースなどがあり、すべてが調査されているわけではありません。海外の中学生、高校生でメガマウスザメに触ったことがある人はほとんどいないでしょう。まして、みなさんは、今日、解剖作業に参加するわけですから、とても貴重な体験をするんですよ」

 ハンドフリーマイクを装着した仲谷先生の声が響きました。ここは海遊館のバックヤード。作業場の中央には、冷凍保存されていたメガマウスザメが置かれ、解剖のメスが入れられる瞬間を、地元の中高生30名と報道陣が見守っていました。現場で指揮をとるのは、エイの研究者として知られる海遊館の西田清徳(にしだ・きよのり)館長。飼育スタッフ2名が、メガマウスザメの腹部にナイフの刃をあてました。スマートフォンで撮影する人、凝視する人、ちょっと後方から覗き見る人・・・、反応はいろいろです。

 スケソウダラのように白っぽい色をした、厚さ5〜6cmほどの筋肉が露出し、その下からツルっとなめらかな肝臓が現れました。

肝臓。2葉のうち1葉だけで約30kg。

 「これが肝臓です。触ってみましょう!」と仲谷先生。

 全長などを測定し、すでにその体に触りなれていた参加者たちは、ためらうことなく進み出て、肝臓の感触をたしかめ、スマートフォンで写真を撮っています。

 「こんな機会はないので参加しましたが、デカくて圧倒されました。でも、皮膚はぷにょぷにょしていて、ゾウみたいな感触でした」と高校生の女子。釣りが趣味という中学生の男子も「下顎の部分を触ったら、ゼリーみたいだった。珍しいサメなので面白いです」と目を輝かせていました。

噴門胃(右側)と腸(左側)。

 肝臓、膵臓、胃、腸、子宮、卵巣、背骨の解剖と、胃の内容物の確認を終えたのは午後4時近く。仲谷先生の講義とあわせて午前9時前からおこなわれていた体験学習も、そろそろ終了です。「すごかったね〜」、「面白かったね〜」と笑顔を浮かべる参加者たち。ひょっとしたら、このなかからメガマウスザメの謎を解き明かす人が出てくるかも? 

「仲谷先生の話が面白くてサメが好きになった」と話す参加者も。
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