マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

海洋研究開発機構(JAMSTEC)
むつ研究所施設一般公開
世界の海で活躍した観測機器も展示
学校では聞けない“海の科学”にドッキドキ!

開催日
2016.07.10(日)
会 場
青森県むつ市
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)むつ研究所
主 催
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)むつ研究所

本物の観測機器が登場

 6,500mの深海を潜水調査する「しんかい6500」を所有し、日本近海をはじめ、太平洋、大西洋、インド洋など世界じゅうの海で研究調査をおこなっている海洋開発機構(本部/神奈川県横須賀市)。「海と日本プロジェクト」の一環で、今年初めて開催される「海の宝アカデミックコンテスト2016」に関連する催事の第2弾は、青森県むつ市にある「むつ研究所」の施設公開です。

 むつ市があるのは、青森県下北半島の陸奥湾と津軽海峡にまたがる広大なエリア。むつ研究所は津軽海峡側の関根漁港の近くあります。敷地内には港もあり、海洋地球研究船「みらい」が調査から戻ったときは、この港に停泊。全長128.5m、総トン数8,706トン。国内最大の海洋調査船として知られていますが、残念ながら、施設公開日には航海中のため、その姿を見ることはできませんでした。

 しかし、「みらい」が調査で使っていた本物の観測機器を展示。海洋の熱循環、地球温暖化に関わる二酸化炭素などの物質循環、海洋の生態系、海底の地形や地質構造などを調べる海洋底ダイナミクスなどの解明を使命とする船なので、最新鋭の観測機器が搭載されています。

トライトンブイ。黄色い部分が海面に出ている。観測データは天気予報にも利用されている。

 今回はそのうちのひとつ、「トライトンブイ」が正面玄関前に展示されていました。これは、赤道付近の太平洋、東インド洋でエルニーニョやアジア・モンスーン(梅雨時期の大雨の原因となる季節風)などの気候変動現象を調べるための機器。2006年に開発されたそうです。

ディープニンジャ(左)とアルゴフロート(右)

 そして、この機器のとなりに展示されていたのが、海洋観測ロボット「ディープニンジャ」(最大観測深度4,000m)と「アルゴフロート」(最大観測深度2,000m)です。この観測ロボットは、深海の水温、塩分、圧力を測定し、海面まで浮上して、観測データを通信衛星に送り、フランスとアメリカにある世界アルゴデータ集積センターに送信するという優れもの。しかも、意外なことに、世界各地の海に投じられている3,500個のうちのいくつかは、神奈川県立海洋科学高等学校の「湘南丸」、青森県立八戸水産高等学校の「青森丸」など日本の高校や大学の練習船から投じられたといいます。

 ただし、海中にジャッポ〜ンと投げ込まれたら、そこから先は自動。モーターとポンプで、本体の下部に蓄えられたオイルが、本体底部の油室に押し出されたり(浮上)、押し戻されたり(沈降)して海面と深海を移動するのだとか。

 地球のなりたちや環境を知るために、数々の最新技術が導入されている海。風と潮流と星の位置をたよりに進む帆船が主流だった時代には想像もできなかったでしょう。しかも、JAMSTECの公式サイトにアクセスすれば、自宅のパソコンから観測データをチェックできるというのだから、テクノロジーの発展には驚かされるばかりです。

下北半島周辺の海を知る

 下北半島は、金太郎がかついでいるマサカリの形をしています。津軽海峡をはさんで対岸の北海道との最短距離は約20km。天気がよいと、どちら側からも対岸が見え、「江戸時代、下北半島の佐井村は北前船の寄港地として賑わったそうです」と、むつ研究所の渡邉修一所長。下北半島には、縄文人の末裔と考えられているアイヌ民族が話していたアイヌ語地名も残り、古くから海峡を越えて人の往来があったようです。ところが、それぞれの沿岸を洗う海水の温度は、海流の影響で違いがあり、磯の魚貝類の分布も函館沿岸は低温系が多いのに対して、下北半島の津軽海峡沿岸は高温系が多いといいます。

 「津軽海峡には、日本海を北上してくる暖かな対馬海流が流れこんでいます。しかし、津軽海峡の北海道側には、北海道南岸に沿って流れてくる冷たい沿岸親潮があるため、海水温に違いが出るのです」と、むつ研究所研究推進グループの山本秀樹さん。海水温の違いは海藻にも影響を与え、たとえば、函館を中心とする噴火湾で採れる真昆布(マコンブ)の味も、下北半島の津軽海峡沿岸で採れるものには、独特の風味があり、同じ種類でありながら、一般には「下北昆布」と呼ばれています。

 むつ研究所では、北海道大学や青森県産業技術センターなどと連携して、下北半島周辺の海水温や海流などの調査もおこなっています。そして、今回の施設公開では、こうした日頃の研究成果もポスター展示されました。前出の山本さんは、「陸域周辺海域海洋環境変動研究」などで、海中から採取される炭素などの物質を分析するスタッフのひとり。むつ研究所には、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)や走査型電子顕微鏡、海水前処理システムなどがあり、「みらい」で採取された海水や海底堆積物、生物などの保管、前処理、分析、解析などがおこなわれているそうです。

キーボード操作で深海生物と出会える「深海映像・画像アーカイブス(J-EDI)」。おとなも熱中していました。

 今回の催事では、こうした設備は公開されませんでしたが、水中TVカメラロボットの操縦や、JAMSTECが所有する膨大な映像や画像を見られる「深海映像・画像アーカイブス(J-EDI)」が体験でき、子ども連れで訪れていたお父さんやお母さんも、パソコンの前で深海生物の画像に歓声をあげていました。

 一方、地元の中高生の大半は部活動でこの施設公開には来場できず、代わって幼児や小学生の姿が目立ちました。そのようななか、最近話題のロボット「pepper」(ソフトバンク)が登場し、深海生物を大画面の前で紹介。身ぶり手ぶりで説明するpepperはまるで本物の研究者!? 子どもたちは身を乗りだして画面に釘付けになり、「目がでっか〜い!」、「おもしろ〜い!」などと歓声をあげていました。

 海の魅力を科学の目で探る今回の施設公開。みなさん、どんな「海の宝」を見つけたのでしょう。ふだんは静かな研究所も夕方まで賑わっていました。

トップへ戻る