マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

JAMSTECむつ研究所 第7回 沿岸観察会
潮だまりにはウニもいる!?
津軽海峡の磯辺には生き物がいっぱい!!

開催日
2016.07.02(土)~03(日)
会 場
青森県むつ市
むつ市下北自然の家/ちぢり浜
主 催
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(JAMSTEC)むつ研究所
観察会1
観察会2

 北海道新幹線の開通で、函館まで新幹線で行き、津軽海峡フェリーで対岸の大間町に渡り、下北半島をめぐる観光ルートが脚光を集めています。大間町はクロマグロの水揚げで有名なところ。さて、今回の「第7回 沿岸観察会」が行われた場所は、その大間町から車で1時間ほど南にある「むつ市下北自然の家」と「ちぢり浜」です。「むつ市下北自然の家」は宿泊室をそなえる社会教育施設。津軽海峡沿いを走る国道279号線からわずかに奥まった森の中にあります。今回の観察会の目的は、天然の水族館ともいえる磯の生き物にふれることで、生物多様性や海水温などの環境条件による生物の特徴などを学び、地球を探り、科学の目を養うこと。この目的からして、自然の家から徒歩で約10分の場所にある「ちぢり浜」は、観察会にはうってつけの調査地です。

 というのも、この浜は波食棚という広く平坦な岩場で、凝灰岩層や泥岩層、砂岩層からなる地層が露出しています。地域名から「大畑層」と呼ばれていますが、300〜260万年前に堆積し、波に削られているうちに、広々とした灰白色の磯には大小さまざまなタイドプール(かめ穴、ポットホールともいう)が点在するようになり、じつに多くの生き物が生息しているのです。

 でも、観察会に参加した63名(幼児、小中校生、専門学校生、保護者)が、浜に出て調査を行ったのは2日目。初日の7月2日は、観察会を主催するJAMSTECの職員や、協力する北海道大学大学院水産科学研究院の教員や院生らが、ちぢり浜で採集してきた海藻や貝などのサンプルを屋内の研修室で観察。日本海側を北上してくる対馬海流が入り込む津軽海峡沿いの海岸にどんな魚貝類が生息するのか、その特徴を調べました。

 理科の実験室を思わせる研修室で、5〜6名のグループ別にサンプル観察を行った高校生は17名。全員、八戸市水族館マリエント「ちきゅうたんけんクラブ」に所属するシニア(高校生以上)です。

 ジャージ姿が大半を占めるなか、『南部ダイバー』の歌詞がプリントされたTシャツを着ている4人の男子を発見。声をかけると、「おれたち南部ダイバーです、岩手県立種市高校です!」と誇らしげにこたえてくれました。NHK朝の連続ドラマ「あまちゃん」で注目を集めた高校、といえばピンとくる読者の方もいるのではないでしょうか。実習でしばしば海に潜るというので、海の生き物にくわしいかと思いきや、「じつは、よく知らないんです。だから、この観察会で勉強したくて参加したんです」と意外な言葉。そんな4人組は、バットに用意された海藻のかたまりを凝視。小さな巻き貝や小魚を見つけ出しては「いた、いた!」などと声をあげていましたが、どうやら、この研修室にいた高校生全員がサンプル調査にハマったらしく、みな、ピンセットを片手に黙々と作業。海藻観察に続いて行われた「ちょっと大きめの生き物」観察になって、「わぁ、ウミウシだぁ!?」「ナマコだぁっ!?」と驚きの声が響くようになりました。やっぱり、”大物“は感動も大きいようです。

 その後、16時40分から宇治利樹博士(北海道大学大学院水産科学研究院助教)、山崎友資博士(北海道・蘭越町総務課学芸係長)、遊佐貴志博士(独立行政法人青森県産業技術センター研究員)の3名が、海藻やクリオネをテーマに講義。別室で小中学生向けにDVD上映を行っていたにもかかわらず、一部の小中学生も講義に耳を傾けていました。聞けば、「ちきゅうたんけんクラブ」のメンバー。中学生の男女2人組は、4歳のときから同クラブに通う海好きです。「海草や海藻が減ると、海の生物も減ってしまうので、大切にすることが生物を保護していくために重要だということがわかりました」と木村太謹(だいき)さん。一方の清水萌花(ほのか)さんは、「海が大好きで、将来は海にかかわる仕事につきたいので、レベルは高いけど北大の水産学部を目指しています!」と目を輝かせていました。

 2日目は、いよいよ「ちぢり浜」で岩肌や石の下、タイドプールを観察。たも網を使って海中のウニやヤドカリ、ウミウシなどをすくい、生き物の感触を体感したほか、コドラートという正方形の枠を使って、海藻・海草がどのくらいの割合で岩肌を被っているか計測しました。

 残念ながらこの日は見えませんでしたが、スッキリ晴れていれば、函館やその周辺が見えるといいます。でも、グループごとに調査を行っていた参加者たちは、水平線の景色より自分たちの足もとに興味津々。なにせ波打ち際の潮間帯(ちょうかんたい)の岩にはヒジキなどの海藻がびっしりと付着し、点在するタイドプールには、ヤドカリや小さなエビ、小魚などがいっぱい。「ウニだ〜ッ!」、「魚だ〜ッ!」「ホヤの子どもだ〜ッ!」と歓声が聞こえてきます。

 「わぁ〜ッ、カニだらけ〜ッ!」歓声をあげたのは八戸工業大学第二高等学校の女子5人組。潮だまりの石の下から小さなカニが1匹、2匹、3匹……。観察のために用意していた透明容器にはあっという間に10匹以上。小さな容器の中でモゾモゾ動く様子に目を丸くしていたのでありました。

 海面と陸地の境界線を「汀線(ていせん)」といいますが、ちぢり浜は、この汀線からタイドプールまでの距離や海抜が異なるため、潮の満ち引きにより海面下にある時間の長さや海水温に違いがあり、動物相や植物相も変化に富んでいるのだとか。

 「今回の観察会に参加して、海水温と海藻、海草、魚貝類の関係を講義で知って、海の見方が変わりました。知識がないと、潜水中に目の前に生えていたり泳いでいたりするものが何なのかわからない。知識があったほうが絶対にいいと思います」と、種市高等学校海洋開発学科の4人組。磯観察に熱中した約2時間はあっという間に過ぎ、それぞれに「海の宝」を心に抱え、「海の宝アカデミックコンテスト2016」への応募作の構想を練りながら、帰路についたのでした。

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