昆布やひじきは「カイソウ」。これを漢字で書けといわれたら、海草と書きますか、それとも海藻と書きますか? 正解は後者。海草はマコモやウミショウブなど干潟や汽水域に生息する種子植物。「うみくさ」と読む人もいます。そして、今回のイベントの主役は緑藻、紅藻、褐藻に大別される海藻。しかも、めったに見られないガゴメとアカモクの赤ちゃんです。
函館空港、函館市役所、五稜郭タワーアトリウムのいずれの会場でも、来場者の反応は「ええ〜ッ、海藻の赤ちゃん?」。2台の円柱水槽のそれぞれにガゴメとアカモクが浮かび、そのあいだをイシダイが遊泳。白黒のしま模様が特徴的なイシダイは、温暖化による海水温上昇の影響で、最近、函館の海にも出没するようになった岩場に生息する魚です。刺身、カルパッチョ、煮つけ、唐揚げなどどんな調理法でもおいしくいただける魚ですが、函館でその存在を知るのは釣り人や漁師くらい。展示水槽の中で泳ぐ珍魚を見つけて「わぁ、お魚だぁ!」とかけよってくる子どもたちはもちろんのこと、ほとんどの見物客が白黒ツートンカラーのパンダみたいな魚に引き寄せられたのでありました。
四方を海に囲まれた日本では、岩場といわず、砂浜でも枯死した海藻を見かけ、海沿いの観光地ならたいがいの土産物屋で、地場の海藻が売られています。ところが、身近すぎて意識したこともなかった海藻の赤ちゃんが、水槽の中で漂っている!? 来場者の多くが、大人の親指大のガゴメコンブの赤ちゃん(幼胞子体)を見て、「へぇ〜ッ、コンブの赤ちゃんって、こんな形をしているんだ」と興味深げに水槽をのぞき込んでいました。なかには、コンブのライフサイクルを紹介するパネルの説明文を読み、「コンブって、精子と卵が受精して増えるんですネ。人間みたいだ!?」と感心する来場者も。たしかに、これは意外かもしれません。
コンブは、岩に付着している根っこの部分(付着器)と、その上の茎状部、葉状部で構成されています。塩昆布、ダシ用昆布、昆布巻きなど、私たちがふだん食べているのは主に葉状部。陸上の植物のように根(付着器)だけから栄養を吸収することはなく、体全体で光合成をおこなって糖をつくり、海水中のリン酸や窒素などの栄養分を吸収しています。
葉状部からは成熟期に胞子を海水中に放出し、これが岩や貝殻などに付着します。胞子は、オス、メスそれぞれの性をもつ配偶体になります。その配偶体から放出される精子と卵が受精して、コンブの赤ちゃん(幼胞子体)に育ちます。陸上の植物や動物が登場するよりはるか昔に地球に現れた海藻類。科学の目でコンブを見ると、生命進化のダイナミズムにワクワクさせられます。
五稜郭タワーアトリウムでの開催初日の11月7日、国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)がモロッコのマラケシュで開幕しました。トランプ次期米国大統領が選挙戦中に、「温暖化は中国のでっちあげ」と発言し、地球温暖化対策の国際的な新枠組み「パリ協定」からの離脱を示唆。米国は世界第2位の温室効果ガス排出国。米国の科学誌『サイエンス』が、「大統領就任後は科学を尊重してほしい」と、11月17日付けの電子版に論説を掲載するなど騒動になっています。
地球が誕生して約46億年。多くの生命を育んできた酸素は、植物や海藻類による光合成によってつくられてきました。世界には約1万種類の海藻が生育し、このうち日本で確認されているものは約2000種類もあります。二酸化炭素を固定化する海藻が地球環境に果たす役割は非常に大きいといわれ、今回のパネル展示でも、そのメカニズムが紹介されました。
古くから海藻を食べてきた私たち日本人にとって、「海藻=食べるもの=健康によい」というイメージが先行しがち。そのため、海藻が地球環境に貢献していることも多くの来場者には意外だったようで、「勉強になるねえ」とつぶやく年配の男性も。マコンブ、ガゴメの産地である函館で暮らしていても、生態には関心がなかったそうです。
「9月の台風で十勝地方に大きな被害が出たけど、北海道に上陸した台風であんなことになんて、以前は考えられなかった。やっぱり温暖化の影響なのでしょうね。海藻って、大事ですね」と語る来場者もいて、一般の人たちに新たな視点をもってもらうイベントとなりました。