マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

海や船と星を巡るプラネタリウム
〜海と日本プロジェクト〜

開催日
2016.10.01(土)
時 間
AM10:00~PM5:30
会 場
函館プラネタリウム館
主 催
サイエンス・サポート函館

手作りプラネタリウムで函館の夜空から宇宙へ

函館市郊外にある函館プラネタリウム館。屋根の上の白い部分がドーム。

 北海道新幹線効果で、2016年上半期の函館の観光客数は昨年より増加。函館山ロープウェイの利用客も前年より7.4%増えて、106万5557人だったそうです。夜間に利用した人たちの目的はもちろん夜景。美しい街明かりを中心に、両側が海に囲まれている地の利が、独特の景観を生み出しました。ところが、一方では、市の中心部からは星空が見えにくいという悩みも……。そんな事情をかかえる函館の街外れに、2010年、NPO法人函館プラネタリウムの会がつくった「函館プラネタリウム館」が誕生しました。

“宙先案内人”の高橋真理子さん(前列中央)と「ライトダウンやまなし実行委員会」の跡部浩一事務局長(前列左から2人目)を囲んで記念撮影。手作りプラネタリウムは意外に広く、今回は1回の上映会で定員30名。各回とも満員御礼となった。

 このプラネタリウムは、建物のオーナーで歯科医師の村井茂(むらい・しげる)さんと仲間たちによるDIY。民家の屋根をはがし、三角形に切った板を貼り合わせてつくったもので、直径7メートルのドームに、星空の映像が映し出されます。一時期、国内では減少傾向にあったプラネタリムは、2010年頃からゆったりとした座席を配した新たな施設が次々と登場し、おとなも楽しめる施設として人気を集めています。月に1度、プラネタリウムの上映会と星空の観望会が開かれている「函館プラネタリウム館」は、床に寝転がって天空を眺めるこぢんまりとした施設ですが、専門家のあいだでは「ちょうどよい広さ」と評判がよいとか。今回のスペシャルイベントの講師、山梨県甲府市を拠点に“宙先案内人”として活動する「星空工房 アルリシャ」の高橋真理子(たかはし・まりこ)さんも人の手のぬくもりを感じさせる会場の雰囲気を絶賛。午前10時から約30分間の内容で7回にわたりおこなわれた上映会で、総勢235名の参加者を夜空の世界へといざなってくれました。

星空は普遍の宝物

 上映開始とともに、真っ暗になったプラネタリウムにまず映し出されたのは、函館の夜空でした。漆黒の闇にキラキラと星が輝いています。「うわぁ〜、きれい」と、どよめきがおこり、星座が映し出されると、どよめきはいっそう大きくなりました。「地球は自転をしながら太陽のまわりをまわっています。そして、このことが、我々人類に時間や暦(こよみ)の概念をもたらしたのです」と解説する高橋さんの話が新鮮に聞こえてくるのも、迫力満点に迫るプラネタリウム映像の力かもしれません。上映されたのは米国、スウェーデン、日本の共同開発による最新鋭の映像ソフトで、地球から宇宙のはてまで描きだされています。高橋さんはさらに、ミクロネシアの海洋民も星を頼りに航海していたことを説明。ヴァーチャルな宇宙旅行を通じて、日頃何気なく眺めている海や星の存在の大きさを再認識することとなりました。

メソポタミア文明の時代に考え出された星座。ドームに星座が映し出されると参加者から歓声が!!日本では、奈良県明日香村のキトラ古墳に天文図が残る。

 7回目の上映を終えて、プラネタリウムから出てきた参加者たちは、「すばらしかった〜!」、「感動的だった〜!」と興奮したようすです。星空の美しさが評判の大沼国定公園近くから参加した2組の親子連れも、「今まで何となく空を見上げていたけど、これからは星座のことなんかを思い浮かべながら見るようにします。解説がわかりやすかったし、参加できてよかったです」と満面の笑み。プラネタリウム体験で、恵まれた星空環境で生活していることに気づかされたそうで、「帰ったら、さっそく空を見ます」と弾んだ声。参加者のクルマが駐車場から去っていくなか、ふと西の空を見上げると、函館湾の上空にいちばん星が輝いていました。

「あれは金星です。あ〜、左側に土星も見える」

 こう叫んだのは、2015年に函館の『星空マップ』を発行した遺愛女子中学校高等学校の地学部に所属する岡田結衣(おかだ・ゆい)さん。薄暮の空に黒いベールが垂れはじめ、1つ、2つと星が増えていきます。18時からは、イベント開催の準備にあたった関係者向けの上映が行われ、その間の30分で、地球は太陽の周りを回る公転軌道を5万4,000キロメートル進み、天空の星は地上から見て7.5度の角度で移動。上映会を終え、18時50分に上空を通過する国際宇宙ステーションを見るために外に出ると、ほんの少しだけ金星が東の空にずれていました。まもなくすると、西から北の空へと向かって移動する赤い星が!? 「あれが国際宇宙ステーションです。今日は晴れているのでよく見えますね」と、高橋さん。赤く見えるのは、高度400キロメートルの上空では、まだ太陽の光が当たっているからだとか。上空から函館の夜景はどんなふうに見えるのでしょうか。そんなことを皆でつぶやきあっているうちに、赤い光はあっという間に北の空へ。その先には、長い間、人々が北半球の海を船で移動する際の道しるべとした北極星が輝いていました。

写真中央に見える小さな光が金星。日没後、西の空に見える金星は「宵の明星」、夜明け前、東の空で輝いている金星は「明けの明星」と呼ぶ。

 函館市内には縄文時代の遺跡が点在し、サケやマグロなどの魚類、オットセイやクジラなどの海獣を食べていたことがわかっています。舟形の土製品も発見されていることから、磯舟のようなものを使って漁をしていたのかもしれません。同様の丸木舟は日本各地から出土し、海辺で暮らしていた人々が、もし、現在のように夜も明けきらぬうちから漁に出ていたとしたら、東の空にはひときわ明るく輝く明けの明星、金星を目にしたはず。星のきらめきは、人類にとって普遍の宝物。宇宙旅行が日常的な旅となったとき、人類はどんな思いで星々を眺め、青い惑星、地球を見つめるのでしょうか。

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