マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

北の魚の赤ちゃんと海藻の世界

開催日
2016.08.10(水)~17(水)
2016.09.03(土)~10(土)
会 場
函館空港
主 催
北海道大学大学院水産科学研究院

羽田空港から飛行機で1時間
函館空港で地元の魚の赤ちゃんを披露

 今年3月、待望の北海道新幹線が開通しました。函館の人たちの話では、「以前より観光客が増えている感じがする」とのこと。実際、東京駅を出発する金曜日夜の最終便や土曜日の朝の便は、北へ向かう乗客でびっしり。一方、日本航空と全日空の発表によると、北海道新幹線開通直後の2016年4月の羽田—函館の利用者数は8.4%の減少にとどまり、空の便も健闘しているようです。

 函館空港は、北海道の空港では新千歳空港(2046万人)に次いで利用者が多く、2015年の利用者数は国内線と国際線をあわせて約177万人。東京、大阪、名古屋、新千歳、丘珠(札幌)、奥尻を結ぶ便の離発着数は、2016年8月の時点で1日に46回(共同運行便を1機としてカウント)。このほかに、台北、天津と函館を結ぶ定期便も就航し、東京からの第1便が到着する午前8時台から、空港の到着ロビーはビジネス客、帰省客、観光客でにぎわいます。

 本州方面から飛んでくる飛行機は、青森上空で高度を下げ、天気がよければ下北半島や津軽半島のヒバの森が眼下に迫り、海岸線に点在する漁村の姿もくっきりと映ります。そして、巨大な湖のように北海道と本州をまたぐ津軽海峡。やがて函館山が見えはじめ、風向き具合によっては北海道新幹線の線路や五稜郭公園を真下に、山側から滑走路へ。空の旅の醍醐味を存分に味わえる飛行ルートです。

 そして函館空港。朝市、湯の川温泉、夜景、イカソーメン、海鮮丼……。観光客は足取りも軽やかに到着ロビーを通り抜け、バス乗り場へ。ところが、ツウな旅人は函館空港で早くも函館観光を開始。空港ビル内では、アイヌ民族の衣装や生活道具を常設展示するほか、函館市内で出土した縄文時代の遺跡も常設展示。さらに、2階のショッピングゾーンには、函館の特産品であるガゴメ(昆布の一種)の加工食品を集めたコーナーも用意され、夏場は函館山を眺めながらのビアガーデンも開設。離発着の便数は新千歳空港などにはかなわないものの、飛行機を見ながらレストランで食事も可能。滑走路の向こうには津軽海峡が広がり、魚市場が併設されていれば、空港だけで日帰り観光ができそうなほど、函館の歴史や食文化を楽しめる観光の穴場なのです。

 また、市の中心部から車で15分ほどの距離という地の利から、最近では、デートスポットや仕事の合間の休憩場所として利用する市民も増えているとか。そんな空の玄関で、8月中旬と9月上旬の2度にわたり、「北の魚の赤ちゃんと海藻の世界」展が開催されました。

カレイやニシキギンポなど
函館の海のごちそうが水槽に!?

到着ロビー前の展示スペースで開催。水槽のまわりには人だかりが!
出発ゲートへとつづく、1F中央エレベーターそばの展示スペースで。
イソバテングの赤ちゃんは、水槽に映る自分の姿を仲間だと思って眺めている??

 イベントがおこなわれた場所は、8月は到着ロビー、9月は中央エスカレーター横のそれぞれ展示スペース。各2台の水槽にニシキギンポ、カレイ、イソバテング、ソイ、温暖化の影響なのか、近年、函館周辺の海でも見られるようになったマダイなどの稚魚や成魚がガゴメとともに展示されました。「おさかなだ〜!」、「赤ちゃん、かわいい〜!」と水槽の前で真っ先に足を止める子どもたちのはしゃぎ声につられ、いつもは足早に通り抜けているはずの到着客や、退屈そうに立っているはずの出迎えの人たちが水槽を取り囲み、水族館の一角を切りとったような賑わいぶりです。

魚たちは、ガゴメのそばでチョロチョロと遊泳。海藻は外敵から身を守る役目も。

 ガゴメは、かつて、地元の漁業関係者のあいだでは、表面に凹凸があることから売り物に不向きといわれて敬遠されたコンブです。ところが現在は、ガゴメに豊富に含まれるフコイダン、アルギン酸などの機能性成分が健康によいと注目を集め、函館を代表する特産品に。水槽の中で、幅の広い茶褐色のガゴメが根っこ付きでゆらゆらと漂い、その陰からチョロチョロと小さな魚たちが姿をのぞかせ、海藻の森で成長する魚の様子が再現されていました。

 形がドジョウに似ている全長20cmほどのニシキギンポは、水槽の前に子どもが立つと、エサをもらえると思うのか、近寄ってきて、こちらに顔を向け、くるくると目玉を回したり、口を開けたりと愛嬌たっぷり。「あら、カワイイ!」と、大人の見物客から歓声があがっていました。

高級魚のニシキギンポ。一般の小売店ではまず見かけない。

 じつは、この魚、活魚のまま築地市場に入荷されると、高値で取引されるのだとか。天ぷら屋さんでも高級品扱いだそうで、そんな話を小耳にはさむと、かわいらしいニシキギンポを見ながら、サクサクの衣に包まれた白身魚が脳裏をかすめ、思わずゴクリ。

 そんな“ごちそう”が泳いでいるかと思えば、黒褐色の斑点模様でおおわれたカレイの赤ちゃんは、水槽の底で石ころのように動きません。たまに水面に向かって遊泳しても、すぐに下降体勢になり、平べったい体を上下に動かしながら水槽の底へ。「赤ん坊でもやっぱりカレイですねえ。砂がなくても底に沈んでいたほうが落ち着くのかしら?」と、見物客を感心させていました。

カレイは水槽の底がお気に入り。写真手前が頭部。姿形は成魚を縮小した感じ。

 しげしげと水槽をのぞき込んでいる中年の男女、数人に声をかけたところ、帰省の家族を迎えに来たとのこと。「到着ロビーに地元の魚が展示されるなんて珍しいよね。うちはコンブ漁師で、このガゴメを採ってるのさぁ」と大らかそうな笑顔。子ども連れの家族のなかには、水槽をバックに記念撮影する姿や、水槽の前で立ち止まり、魚たちが泳ぎ回るようすをジーッと見つめるビジネスマンも。どうやら、魚の赤ちゃんには癒し効果があるのかもしれません。

 でも、展示された魚たちは、観賞用の金魚よりはるかにデリケート。水温や水質、給餌の管理がむずかしく、一般家庭での飼育は、よほどの装置とテクニックがないかぎり、まず不可能。今回の展示は、専門家がそろう北海道大学大学院水産科学研究院の豊富な経験から実現しました。

 函館空港の滑走路の前浜は海藻の森。そこで生きる魚の赤ちゃんたちを紹介した今回のイベントは、たいへん珍しい試みで、約2万3000人の観客は、貴重なひと夏の体験をしたといえそうです。

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