マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

北の魚の赤ちゃんと海藻の世界
最先端研究の実験棟は魚の保育園!?
見学ツアーに大歓声

開催日
■水槽・パネル展示
2016.07.17(日)~24(日)
■水槽バックヤードツアー(蓄養水槽見学)
2016.07.17(日)~18(月)、23(土)~24(日)
会 場
函館市国際水産・海洋総合研究センター
主 催
北海道大学大学院水産科学研究院

海藻の影に、カレイの赤ちゃんがいるッ!!

 津軽海峡を越えた渡島(わたりのしま)、北海道南部地域は7世紀頃より大和朝廷との交流がありました。潮の流れが速い津軽海峡に面していながら、函館湾は、函館山の南側が堤防となり、天然の良港を形成しています。そして、一帯はマコンブやガゴメの生育には打ってつけの海水温です。函館を代表するこれら2種類のコンブのうち、マコンブは、14世紀の寺子屋の教科書『庭訓応来(庭訓往来)』に「宇賀昆布」として紹介されていることから、当時、宇須岸(うすけし)と呼ばれた函館湾からは、マコンブを載せた船も出港したと考えられています。

 ところで、函館山の北東には宇賀浦という浜辺があります。ここはマコンブの生育域。種類や生育環境などによって異なりますが、マコンブは主に水深3〜15mの岩礁帯で育ち、あたりはコンブの森。陸上の森に昆虫や鳥、動物が数多く暮らしているように、コンブの森にも、さまざまな海の生き物がいます。なぜなら、海藻で身を隠せるから。しかも、エサとなるプランクトンも豊富。生まれたばかりの魚の赤ちゃんや稚魚にとっては安心できる環境というわけで、コンブの森をはじめとする海藻の森は、魚の保育園といった感じです。

水槽にはチョウザメも!

 でも、一般の人がコンブの森を見る機会は、そうありません。そこで、今回のイベントでは、函館市国際水産・海洋総合研究センターで常時研究を行っている北海道大学北方生物圏フィールド科学センターと水産学部、函館国際水産・海洋都市推進機構、はこだて未来大学、函館水産試験場、海に関係する企業の有志で結成されたマリンサロンとノース技研が協力し、実験施設を公開したり移動型展示水槽を設置して北の海の世界を再現しました。じつは、研究センターの1階では、アブラコやソイなど函館周辺で釣れる魚の幼魚、養殖研究中のチョウザメの幼魚などを水槽で常設展示。今回は、さらに小さなカレイやゴッコ、ハッカクの仲間などの稚魚を海藻とともに展示しました。

興味津々で参加した子供たち

 ボコボコとエアポンプの音が響く水槽の前を真っ先に陣取ったのは、好奇心おう盛なちびっ子たち。「ほら、カレイの赤ちゃんだよ」、「これはハッカクだよ」などと付き添いの保護者から教えられても、水槽の中で泳ぐ稚魚や幼魚たちと同世代とおぼしきちびっ子たちには、ちょっとばかし難易度の高い説明。「あ〜、赤ちゃんだ、カワイイね〜」とか、「うごいた、泳いでる〜」などといった無邪気な触れ合い体験です。そんな“観察者”の気持ちを知ってか知らでか、水槽の内側にいるチビッ子たちは、こちらに顔を向けて眼をクルクル動かしたり、海藻の影からひょいと姿を見せたり元気いっぱい。ところが、「函館のおさかな王子」という異名を水産学部の教授陣から与えられたゴッコ(ホテイウオ)の赤ちゃんだけは、米粒2〜3個分のサイズ。水槽の中に設置されたガラスの容器内で展示されているというのに、カワイイはずの顔も肉眼では確認できません。そこで、一計を案じた2人の准教授が動画を撮り、インターネットの動画サイトで紹介。これにてようやく顔や泳ぎ方が確認でき、しかも、目と目が離れてウーパールーパーに似た愛きょうのある顔立ち。動画の視聴回数も増加中というオマケがつきました。

 さらに23日、24日は実験用の大型水槽にアジ、イワシ、サバの幼魚を放し、沿岸調査用の水中カメラで水槽内を撮影。その様子を来場者がモニターでチェックするという趣向を凝らした仕掛けも施され、大人も盛り上がる水槽展示となりました。

最先端の研究をおこなう水槽バックヤードへGO!

 実験棟の大小さまざまな水槽では、ニシン、イワシ、アジ、サバ、ホタテなど函館周辺の海に生息する魚が飼育されています。ちなみにイワシ、アジ、サバは、施設のスタッフが近隣で釣ってきたもの。函館湾は、観光のついでに釣りもできるといわれているほど魚種が豊富なのです。

大型水槽や機材が並ぶ実験棟。気分は研究者?

 さて、バックヤードツアーでは、潮流の強弱によって変化する魚体の角度の調査、水中音響機器による実験のようすなどを見ることができます。参加者のなかには中高生や夫婦連れの姿もあり、7月17日、18日には162名、23日、24日には208名が来場。北海道大学大学院水産科学研究院の平松尚志准教授をはじめ、北方生物圏フィールド科学センターの宮下和士教授、白川北斗・南憲吏特任助教や、各研究室の院生が得意分野を受け持ち、ふだんは目にすることのない最先端研究の現場を、この機会にひと目見たいと集まった人たちを案内しました。

 「エサやりがおもしろかった!」と小学生たちが目を輝かせる一方、「実験室を見る機会なんてないし、ワクワクした」と話す大人も。じつは、世界人口の急増にともなう食糧危機が現実味を帯びつつあるなか、ここでは魚貝の増殖研究もおこなわれています。魚の赤ちゃんたちの飼育はとても難しいそうですが、ここでの研究成果が、日本人を救うかもしれないと思うと、水槽のチビッ子たちを見る目もちょっと変わってくるかもしれません。

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