マリン・ラーニング

【イベント終了レポート】

房総の海の森の物語—海と日本プロジェクト
講演会 海の物語—君も海藻博士—
食材、神饌、薬、工業原材料・・・
日本人が海藻をフル活用してきたワケ

開催日
写真展示 2016.07.17(日)~18(月)
講演会 2016.07.18(月)
会 場
千葉県立中央博物館
主 催
国立大学法人北海道大学
共 催
千葉県立中央博物館
後 援
国立大学法人千葉大学
千葉県漁業組合連合会
日本応用藻類学会
日本海藻協会
日本藻類学会
協 賛
NPO法人海の森づくり推進協会、(株)都平昆布海藻

海藻の種類が多い千葉県

 JR千葉駅からバスで10分ほどの場所にある千葉県立青葉の森公園。広大な敷地の一角に建つ千葉県立中央博物館では、7月9日からはじまった企画展「驚異の深海生物―新たなる深世界へ―」を開催中。「海と日本プロジェクト」の一環で、今年初めて開催される「海の宝アカデミックコンテスト2016」に関連する催事の第3弾は、深海生物展の来場者でにぎわうなか、博物館1階の講堂・第一ホールでおこなわれました。講演会に先立ち、講堂前の第一ホールでは、17日より房総半島の固有種をはじめとして特徴ある海藻の生態写真50点を展示。千葉県立中央博物館では、太平洋側の勝浦にある分館・海の博物館が中心に海藻をはじめとする海の動植物の研究をおこない、海藻の生育状況を示す貴重な画像資料などを数多く所蔵しています。

写真展では房総半島の海藻がずらり。

 写真展では固有種のオオノアナメ、オゴノリ、ヒジキ、アカモク、ワカメ、ホンダワラ、イワノリ、テングサ、トサカノリ、ハバノリなど房総半島の海藻写真がずらり勢ぞろい。もっとも、これらは千葉の海で育つ海藻のほんの一部。実際には、この10倍の約500種類も生育しています。こんなに種類が多いのは、長い海岸線が東京湾に注ぐ江戸川河口のディズニーランドから富津岬、最南端の野島崎を経て太平洋側の九十九里浜、銚子半島にかけて広がっているため。そして、もうひとつ。県の北部に位置する銚子付近は冷たい親潮の影響を受け、房総半島の南部は暖かな黒潮の影響を受けるので、同じ県内の海でも海水温が異なるからです。さらに、海岸線の地形が岩礁、砂浜、干潟など変化に富み、バラエティに富んだ自然環境が、多種類の海藻を育みました。

栄養豊富な海藻を食べ、神社にも奉納してきた日本人

 江戸時代からアサクサノリを養殖し、「上総海苔(かずさのり)」のブランドで大消費地の江戸に海苔を出荷してきた千葉。ショッキングなことに、現在、アサクサノリは絶滅危惧種。かなり以前から、おにぎりやノリ弁などで日常的に食べている板海苔の原料は、ナラワスサビノリが主流を占めています。おにぎりといえば、中高生にとっては部活後や夜食の友。江戸時代に板海苔が開発されたことで、海苔で包んだおにぎりや海苔巻きなどが登場。おいしいので、あっという間に日本じゅうに広がり、瀬戸内海や有明海など各地の海でノリの養殖がおこなわれるようになりました。

海藻の栄養成分や機能性成分について紹介する能登谷正浩先生。海藻は食品添加物や工業原料としても活用されている。

 でも、なぜ、海苔はおいしいのでしょうか? 18日に開催された講演会に、その答えがありました。講演のトップバッターとなった東京海洋大学名誉教授の能登谷正浩(のとや・まさひろ)先生は、海洋生物学が専門で、海藻や海草が生育する藻場の造成や海藻バイオ燃料などの研究で知られています。「やさしい海苔の生物学」と題した今回の学術講演は、バイオテクノロジーのような小難しい話ではなく、海苔の生物としての特徴、海苔に含まれる栄養素や海苔栽培の歴史、技術など。海藻は、海中で植物のように光合成によって成長します。つまり、あのヌルヌルとした“カラダ”の中には、野菜や果物のようにビタミン、ミネラルを豊富に含み、意外にも私たちが日常的に食べている板海苔には、100g中およそ40gもタンパク質が含まれているのです。市販の板海苔は1枚が大体3gなので、実際に摂取できるタンパク質の量はわずかですが、海苔のヒットの影に、このタンパク質の存在があったのです。

 タンパク質は、各種のアミノ酸で構成されています。そのアミノ酸のひとつにグルタミン酸があります。これは、うま味成分の代表格。コンブでとったダシが美味しいと感じるのもグルタミン酸によるもの。江戸時代にはかつお節も登場し、こちらは、同じくうま味成分のイノシン酸が豊富。コンブ+カツオ=グルタミン酸+イノシン酸→和食文化の発展に貢献したというわけです。

古くから海藻を食べ、神社にも供えてきた日本の海藻文化について紹介する富塚朋子先生。千葉県では、はばのり雑煮や海藻こんにゃくなどが郷土料理として知られる。

 能登谷先生につづく講演者の富塚朋子(とみづか・ともこ)氏は、千葉県立中央博物館・共同研究員です。演目は「親子で学ぶ日本人の海藻利用——昔から食べてきた——」。房総半島の人々と海藻のかかわり方、神饌(しんせん)つまりお供え物として利用されてきたアラメやホンダワラをはじめとする海藻と神様のかかわりについて紹介しました。

 海藻は、古くから神社のお供え物として神様にささげられてきました。また、奈良時代の平城京(へいじょうきょう)跡地から発掘された木簡(もっかん)からもコンブやワカメを示す文字が発見されています。さらに時代をさかのぼると、島根県の出雲大社に近い猪目(いのめ)洞窟ではアラメやホンダワラ、青森県の亀ヶ岡石器時代遺跡では海藻入りの土器が見つかり、高知県の龍河洞(りゅうがどう)遺跡では、土器片からヒジキらしい痕跡が見つかっているようです。

質問タイムには小学生から大学生、シニアから質問が出て、なかには環境問題と海藻の関係について質問する参加者も。

 千葉県ではハバノリを使った「はば雑煮」、コトジツノマタを煮溶かして固めた「かいそう」などが郷土料理として今に残り、平成18年に全国第2位の生産量を誇る房州ひじきも特産品として知られています。また、紅藻類に含まれるカラギーナンの粘性を活用して、アイスクリームや乳製品などの増粘剤として食品加工に使われているほか、化粧品や歯磨き剤などにも使われています。こうした身近な海藻の話は参加者の好奇心を刺激したようで、質問タイムには小学生からシニアまで、さまざまな質問がでて、場内はアカデミックな熱気でムンムン。

第2 部のコンサートは「海」にまつわる歌の数々が披露。久島美雪さんの歌声に拍手喝采。

 つづいて第2部・海風コンサートでは、エレクトーン奏者の仁科愛(にしな・あい)さんの伴奏で、声楽家の久島美雪(ひさじま・みゆき)さんが『海』や『リトル・マーメイド』など「海の日」にちなんだ歌の数々を披露。美しい歌声に、30度を越す暑さも忘れるひと時となり、「海の日」は笑顔と拍手で締めくくられました。